メールや社内文書を書いていて、「内容は合っているのに、きつく聞こえないだろうか」と不安になることはないでしょうか。同じことを伝えているつもりでも、言葉の選び方や語尾しだいで、相手の受け取り方は大きく変わります。
生成AIは、文章そのものを書くこともできますが、特に得意なのは「すでにある文章のトーンを整える」ことです。自分で書いた文をそのまま渡し、「取引先向けに」「社内向けに」「お詫びとして」などの条件を添えるだけで、印象の違う言い回しをいくつも提案してくれます。
この記事では、取引先メール・社内のお知らせ・お詫びの文面という3つのよくあるシーンを例に、AIを“やさしく整えてくれる編集者”として使う方法と、具体的なプロンプトの書き方を紹介します。
1. AIに伝えるべきは「相手・目的・雰囲気」の3つ
AIに文章の調整を依頼するとき、いきなり「丁寧な文章にしてください」とだけ伝えると、意図と少し違う結果になることがあります。そこで、最低限次の3点をセットで伝えるのがおすすめです。
・誰に向けた文章か(取引先/社内メンバー/お客様 など)
・何のための文章か(依頼/お詫び/お知らせ など)
・どんな雰囲気にしたいか(明るく/落ち着いて/事務的に など)
たとえば、日程調整のメールを取引先に送るとき、下書きを書いたうえで、次のようにAIに相談できます。
例:「次のメール文を、取引先の担当者宛てのビジネスメールとして、丁寧で明るい印象になるように整えてください。内容や長さは大きく変えないでください。」
このプロンプトでは、「相手」「目的」「雰囲気」を指定することで、AIに目指してほしいトーンのイメージを共有しています。自分で文を一から考えるのではなく、「言葉の選び方の調整」を任せるイメージです。
2. 事例①:取引先へのメール文を“丁寧で明るく”整える
最初の事例は、取引先へのメールです。納期の調整や見積もりの確認など、こちらから何かをお願いするとき、「強く要求しているように聞こえないか」「遠回しすぎて伝わらないのではないか」と悩みがちです。
たとえば、次のような下書きを用意したとします。
・来週の打ち合わせ日程を変更したい
・こちらの事情で予定をずらすことになる
・できるだけご迷惑をかけたくない、という気持ちを伝えたい
この下書きを簡単な文章にしてから、AIにトーンの調整を依頼します。
例:「次のメール文を、取引先のご担当者に失礼のないよう、丁寧で明るい印象になるように書き換えてください。こちらの都合で日程変更をお願いする事情が伝わるようにしてください。」
このプロンプトでは、相手への配慮と事情の説明という2つの要素を両立させるように依頼しているため、「率直だがきちんとした」文面の候補を得ることができます。
仕上げに、AIに「誤字脱字や不自然な敬語がないか」を確認してもらうのも有効です。送信前の最終チェックとして活用できます。
3. 事例②:社内のお知らせを“やわらかく読みやすく”整える
次の事例は、社内のお知らせや社内報の文章です。新しいルールやシステムの導入を伝えるとき、難しい言葉が多かったり、禁止事項ばかり強調されたりすると、読まれにくくなってしまいます。
AIを使うと、同じ内容を「社員目線で分かりやすく」「前向きな印象で」書き直すことができます。たとえば、勤怠システムの変更を伝える文章であれば、次のように依頼できます。
例:「次の文章を、社内のお知らせとして、初めて読む社員にもわかりやすく前向きな印象になるように書き換えてください。変更の背景とメリットが一読で伝わるようにしてください。」
このプロンプトでは、「誰が読むか」と「どこを強調したいか(背景・メリット)」を指定しているため、単なる通知文ではなく、「なぜ変わるのか」が伝わる文章に整えてもらいやすくなります。
また、社内報に載せる短めの紹介文を作りたい場合には、文字数も合わせて指定します。
例:「同じ内容を、社内報に掲載する150字程度のコラムとしてまとめてください。業務が少し楽になるイメージが湧く表現にしてください。」
このプロンプトでは、文字数と雰囲気を一緒に指定することで、「短いが、前向きさが伝わる」紹介文を得ることができます。
4. 事例③:お詫び・クレーム対応の文面を“落ち着いたトーン”に整える
3つ目の事例は、お詫びやクレーム対応の文面です。この場面では、「謝りすぎてしまう」「逆に事務的すぎて冷たく感じられる」といった両極端になりがちで、書き手の心理的な負担も大きくなります。
AIに相談する際は、事実関係と対応方針を箇条書きにし、「どこまで約束できるのか」を明確にしてからトーンの調整を依頼します。
例:「次の内容をもとに、お客様へのお詫びメール文を作成してください。誠意が伝わるようにしつつ、事実関係を冷静に説明するトーンにしてください。今回は返金対応までが可能であり、それ以上の補償はお約束できないことも、誤解のないようにお伝えしてください。」
このプロンプトでは、「どこまで対応できるか」を明示しているため、現実に沿った範囲で、落ち着いたお詫び文の例を提案してもらえます。
必要に応じて、「もう少しやわらかく」「やや事務的に」などと追加で指示しながら、自社にとってちょうどよいトーンを探していくとよいでしょう。
5. AIを“編集者”として使うときのコツと注意点
AIに文章の調整をお願いするときは、「文章の元になる内容」は自分で考え、「言い回しの工夫」や「トーンの微調整」をAIに任せる、という役割分担が現実的です。丸ごとAIに書かせてしまうと、自社らしさや書き手の視点が薄くなることがあります。
また、メールアドレスや個人名などの機微情報が含まれる場合は、その部分をイニシャルや一般名詞に置き換えてからAIに渡すなど、情報の扱いにも注意します。
社内でトーンをそろえたい場合には、「うまくいったプロンプト」をテンプレート化して共有する方法もあります。
例:「次のメール文を、当社の標準的なトーンに合わせて整えてください。『丁寧だが堅すぎない』『前向きで落ち着いている』という条件を意識した言葉選びにしてください。」
このプロンプトでは、自社で大切にしたいトーンを言葉にしてAIと共有しておくと、担当者が変わっても、文章の印象を一定に保ちやすくなります。
文章を「一から全部AIに書かせる」のではなく、「自分で書いた文をひと磨きしてもらう」という使い方なら、今日からすぐに業務に取り入れられます。相手・目的・雰囲気をセットで伝えるだけで、伝わり方は大きく変わります。
次に大事なメールや社内のお知らせを書くときは、下書きをそのままAIに渡し、「取引先向けに丁寧で明るい文にしてください」「社員向けに前向きに伝わるようにしてください」と相談してみてください。少しの工夫で、相手にとっても自分にとっても心地よい文章に近づけていけます。
