【活用編⑤】伝えにくいことを上手に伝える ― ChatGPTで言葉をやわらかく

【活用編⑤】伝えにくいことを上手に伝える ― ChatGPTで言葉をやわらかく

仕事をしていると、「本当は言わなければいけないけれど、言い出しにくいこと」がたくさん出てきます。値上げや納期の延期のお願い、お断りの連絡、注意やフィードバックなど、どれも関係性を大切にしたい相手だからこそ、言葉選びに悩んでしまいます。

生成AIは、こうした“言いにくいこと”を、その場しのぎのごまかしではなく、誠実さを保ちながらやわらかく伝える手助けをしてくれます。自分なりの下書きや箇条書きを渡して、「どこが強すぎるか」「どう言い換えれば伝わりやすいか」を一緒に考えてもらうイメージです。

この記事では、価格改定のお知らせ、仕事のお断り、社内メンバーへの注意やフィードバックという3つのシーンを例に、ChatGPTなどのAIに「言いにくいこと」を相談する具体的な手順とプロンプトを紹介します。

1. まずは「正直な言葉のメモ」を用意する

AIにいきなり「値上げのお知らせ文を作ってください」と頼むと、もっともらしい文章は出てきますが、自社の事情や相手との関係性は反映されません。最初のステップとして、「その相手に、自分の言葉で正直に話すとしたらどう書くか」を、箇条書きでよいのでメモにしてみます。

たとえば、価格改定の場合なら、次のような項目を自分で考えてからAIに渡します。

・原材料価格や送料が上がっていること
・これまで価格を据え置きにしてきた理由
・それでも今回、値上げせざるを得ない事情
・お客様に継続して選んでもらいたい気持ち

この“正直メモ”をそのままAIに渡し、「お知らせ文にするために整えてほしい」と相談します。ポイントは、「何をどこまで伝えるか」を自分で決めたうえで、言葉選びや順番の調整をAIに任せることです。

2. 事例①:価格改定のお知らせをやわらかく伝える

最初の事例は、価格改定のお知らせです。お客様との関係を大切にしたい一方で、値上げをお願いしなければ事業が続けられない、という難しいバランスを取る必要があります。

先ほどの“正直メモ”を基に、AIに次のようなプロンプトを投げてみます。

例:「次の箇条書きをもとに、既存のお客様に向けた価格改定のお知らせメール文を作成してください。これまでのご利用への感謝と、今回の値上げがやむを得ない事情であることが伝わるようにしてください。読み手が不安になりすぎないよう、今後もサービスの質を守る決意も一文添えてください。」

このプロンプトでは、「誰に」「何を」「どんな雰囲気で」伝えたいかをセットで指定しています。AIは、感謝→事情の説明→今後の方針、という流れで、やわらかくも誠実なお知らせ文を提案してくれます。

もし、少し堅い印象が気になる場合は、トーンの微調整もお願いできます。

例:「上の文章を、全体の内容は変えずに、もう少しだけ親しみやすい言葉づかいにしてください。長年の常連のお客様に向けてお話しするイメージで整えてください。」

このプロンプトにより、ビジネスメールとしての形式を保ちつつ、固さを少し和らげた別案を得ることができます。

3. 事例②:仕事のお断りを角を立てずに伝える

次の事例は、「新しい仕事の相談を受けたが、自社の体制や方針からお受けできない」という場面です。断り方を誤ると、今後の関係性に影響が出るため、慎重な言葉選びが必要になります。

ここでもまず、「断らざるを得ない理由」と「それでも感謝していること」「今後も関係を続けたいかどうか」を整理したメモを作ります。そのうえで、AIには次のような形で相談します。

例:「次のメモをもとに、新規のご相談をお受けできないことをお伝えする返信文を作成してください。相手への感謝を最初に伝え、そのうえで現在の体制では責任を持って対応できないことを正直にお伝えしてください。今後、条件が合う案件であればぜひ検討したいという前向きな一文も添えてください。」

このプロンプトでは、「何を優先して伝えたいか」を順番まで含めて指定しています。AIは、感謝→お断りの理由→今後の関係、という三段構成で、角の立ちにくい文面を提案してくれます。

必要であれば、「もっと事務的に」「もっとフランクに」など、相手との距離感に合わせた調整も追加で依頼できます。

4. 事例③:社内メンバーへの注意やフィードバックを整理する

3つ目の事例は、社内メンバーへの注意やフィードバックです。気になる点を指摘したい一方で、「責めているように受け取られないか」「やる気を下げてしまわないか」と心配になり、言葉がきつくなったり、逆に曖昧になりすぎたりしがちです。

このときは、まず自分の感情と事実を分けて整理し、「相手の成長を願っていること」を明確にしたうえでAIに相談します。

例:「次のメモをもとに、部下へのフィードバック文を作成してください。事実として起きたことと、改善してほしい点を分けて説明しつつ、本人の努力や良い点も必ず一文添えてください。責めるのではなく、一緒に改善していきたいという姿勢が伝わるようにしてください。」

このプロンプトでは、事実と評価を区別したうえで、ポジティブなメッセージも含めることを明示しています。AIは、相手への敬意を保ちながら改善点を伝える文面を提案してくれます。

送信前に、自分の言葉として違和感がないか、相手の性格を踏まえて表現を微調整することも忘れないようにしましょう。

5. AIに任せる範囲と、自分で決める範囲

“言いにくいこと”をAIに相談するさいに重要なのは、「伝えるべき中身」と「どこまで約束するか」は必ず自分で決める、という姿勢です。AIは、言葉の選び方や順番の提案は得意ですが、自社の方針や責任範囲を決めることはできません。

そのため、まずは自分の中で「ここまでは約束できる」「ここから先は約束できない」という線引きをしてから、AIに文面の提案を依頼します。AIから返ってきた文章を読みながら、「この言い方なら自分の意図に合っているか」「余計な約束になっていないか」を確認するプロセスが大切です。

また、お客様や社外の相手に送る前に、必要であれば社内の同僚や上司にも一度目を通してもらうと、行き違いや誤解のリスクをさらに下げられます。

価格改定のお知らせやお断りの連絡、フィードバックの伝達など、“言いにくいこと”は、誰にとってもストレスの大きい仕事です。ただ、そのストレスの多くは、「どんな言葉にすればよいか分からない」という部分から来ています。生成AIは、この「言葉を探す」部分を一緒に担ってくれる心強い相棒です。

次に、言葉に詰まってメールの送信ボタンが押せなくなったときは、まず自分の気持ちと事情を箇条書きにしてみてください。そのメモをそのままAIに渡し、「この内容を相手に伝えるための文章案を作成してください」と相談してみましょう。最初の一歩をAIに助けてもらえれば、あとは自分の言葉で微調整しながら、相手との関係を大切にしたコミュニケーションが取れるようになっていきます。

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