生成AIと会話していて、「なんだかピントのずれた答えが返ってきた」「こちらの意図がうまく伝わっていない気がする」と感じたことはないでしょうか。AIの性能そのものも大切ですが、実は「どう質問するか」で結果は大きく変わります。
とはいえ、最初から完璧なプロンプト(指示文)を作る必要はありません。大事なのは、「誰として答えてほしいか」「何をしたいのか」「どんな形で答えてほしいか」という要素を、できる範囲で盛り込んでいくことです。少しずつ質問の質を上げていけば、AIとの会話は確実にスムーズになっていきます。
この記事では、質問づくりの基本と、調べ物・文章作成・考えの整理という3つのシーンでの具体的なプロンプト例を紹介します。「これなら自分の仕事にも使えそうだ」と感じられるところから、真似してみてください。
1. 良いプロンプトは「役割・目的・前提・出力形式」で決まる
AIへの質問がうまくいかないとき、多くの場合は情報が足りません。「売上の上げ方を教えてください」だけでは、どの業種・規模・状況なのかが分からず、一般論しか返ってこないのは自然なことです。
そこで意識したいのが、「役割・目的・前提・出力形式」の4つをできるだけ一文に入れることです。
例:「あなたは中小企業向けのITコンサルタントです。次の前提を踏まえて、従業員5名の小売店に合うクラウド会計ソフトを3つ提案してください。比較しやすいように、表形式で出力してください。」
このプロンプトでは、AIに担ってほしい役割(中小企業向けITコンサルタント)、相談の目的(会計ソフトの選定)、自社の前提(従業員5名の小売店)、出力形式(比較表)をまとめて指定しています。その分だけ、「自社の状況に寄せた答え」を引き出しやすくなります。
完璧を目指さなくても、「役割+目的+前提+出力形式」を意識して書こうとするだけで、質問の質は一段上がります。
2. 事例①:調べ物を“丸投げ”せず、欲しいアウトプットを指定する
最初の事例は、ネットで調べ物をするときの代わりにAIを使う場合です。「ECサイトの送料設定について教えてください」とだけ聞くと、一般論がダラダラと並ぶだけで、自社が今決めたいことにはたどり着きにくくなります。
そこで、自社の状況と悩みをセットで伝え、「候補と比較軸」を指定して質問してみます。
例:「小規模な自社ECサイトで、送料設定に悩んでいます。現在は『一律送料』ですが、『地域別送料』『一定金額以上で送料無料』なども検討しています。従業員5名・月間出荷件数約200件の小売業として、それぞれの方式のメリット・デメリットを3つずつ整理してください。」
このプロンプトでは、「どんな選択肢で迷っているか」「自社の規模」「比較してほしい観点(メリット・デメリット)」が明確なので、意思決定に使いやすい情報が返ってきます。
さらに、最終的にどう決めればよいかの「判断材料」を揃えることもできます。
例:「上で整理してくれた内容をもとに、当社のような小規模ECサイトが送料設定を決めるときの判断ポイントを5つに絞って教えてください。各ポイントの下に、簡単なチェック質問も1つずつ付けてください。」
このプロンプトでは、単なる情報の羅列ではなく、「自社がどこを見て決めればよいか」という観点に整理し直してもらえるため、社内で検討するときの軸がはっきりします。
3. 事例②:文書作成を依頼するときは“骨組み”から決めてもらう
次の事例は、メールやお知らせ文などをAIに手伝ってもらう場面です。「打ち合わせ日程の相談メールを作ってください」だけでも文面は返ってきますが、自社のトーンや相手との関係性までは反映されません。
まず自分で「伝えたい内容」を箇条書きにし、そのうえでAIに骨組みと文章化を手伝ってもらうと、現実的な文面に近づきます。
例:「次の箇条書きをもとに、取引先のご担当者に送る日程調整メール文を作成してください。こちらの都合で日程変更をお願いする内容ですが、相手への配慮が伝わるようにしてください。文面は丁寧で、かたすぎない印象にしてください。」
このプロンプトでは、「元になる内容(箇条書き)を渡す」「誰に送るか」「どんなトーンにしたいか」を指定しているため、現実のやり取りにそのまま使いやすい文章が提案されます。
必要に応じて、「短めに」「社内向けに言い換えて」など、バリエーションを追加で依頼することもできます。
例:「上で作成してくれた文章をベースに、社内チャットで共有するための短いお知らせ文も作成してください。要点だけを2〜3行でまとめてください。」
このプロンプトでは、同じ内容を別の用途向けに変換するよう指示しており、「1つの元ネタから複数の文面を作る」ことができるようになります。
4. 事例③:考えを整理したいときは“質問を作ってもらう”
3つ目の事例は、「そもそも何を聞けばよいか分からない」というときです。新しい事業アイデアや、今後の方向性に悩んでいるときなど、頭の中がモヤモヤしている状態では、質問自体を組み立てるのが難しくなります。
そんなときは、状況をできる範囲で説明したうえで、「考えるべきポイントを整理するための質問」をAIに作ってもらう方法が有効です。
例:「次の状況を踏まえて、私が今考えるべきポイントを整理するための質問を5つ作成してください。質問は『現状』『理想』『制約』『優先順位』『最初の一歩』といった観点をバランスよく含めてください。状況:◯◯◯◯。」
このプロンプトでは、AIにいきなり答えを出させるのではなく、「考えるための問い」を作ってもらっています。自分でその質問に答えていくことで、頭の中が自然と整理されていきます。
ある程度考えがまとまってきたら、その答えをまとめて渡し、次のステップを相談します。
例:「先ほど提案してくれた5つの質問に、私なりに答えてみました。この回答を整理して、今後3か月で取り組むべきアクションを3つに絞って提案してください。各アクションについて、ねらいと最初の一歩を1行ずつ説明してください。」
このプロンプトでは、「自分で考えた内容」を材料に、AIに具体的な行動案を絞り込んでもらっています。AIが勝手に決めるのではなく、自分の答えをもとに一緒に整理してもらう形にすることで、納得感のあるプランになりやすくなります。
5. 良い質問かどうかを振り返るミニチェック
AIとの会話がうまくいったかどうかは、「1回の質問で完璧な答えが返ってきたか」ではなく、「やり取りを通じて、自分の考えが整理されたか」で判断するのがおすすめです。そのうえで、質問そのものを振り返るときには、次のようなチェックが役立ちます。
・自社の状況や前提条件を書いたか
・AIに担ってほしい役割(専門家像)を伝えたか
・欲しいアウトプットの形式(箇条書き/表/文案など)を指定したか
・「とりあえず全部聞く」ではなく、「まずこれから」という優先順位を伝えたか
これらをすべて満たす必要はありませんが、質問するたびに1つでも増やしていくイメージで試してみると、AIとの会話の質が少しずつ上がっていきます。
AIとの会話をスムーズにするコツは、難しい専門用語を覚えることではなく、「相手に状況を伝える」つもりで質問を書くことです。役割・目的・前提・出力形式の4つを意識しながら、少しずつ質問の精度を上げていけば、AIから返ってくる答えもどんどん実務に役立つものになっていきます。
次にAIに相談するときは、「とりあえず聞いてみる」だけでなく、「自分は今、何を決めたいのか」「どんな形で答えがほしいのか」を一文にしてみてください。そのひと手間が、AIを“なんとなく便利なツール”から、“一緒に考えてくれるパートナー”へと変えていく第一歩になります。
