仕事で行き詰まったとき、「誰かに相談したいけれど、身近に適任の相手がいない」「そもそも何を相談すればいいか分からない」ということはないでしょうか。そうしたときに、生成AIは“答えを教えてくれる先生”というよりも、“一緒に考えてくれる壁打ち相手”として役立ちます。
自分の状況や悩みをある程度書き出し、「整理するのを手伝ってください」とAIにお願いすれば、論点を分けてくれたり、考えの抜けを指摘してくれたり、いくつかの選択肢を提案してくれたりします。アイデアや方針の「良し悪し」を最終的に決めるのは自分ですが、その前段階の「考えを広げる・整理する」作業を一緒にしてもらえるイメージです。
この記事では、施策に迷ったときの選択肢整理、やることが多すぎるときの優先順位付け、今後の進め方の壁打ちという3つの場面を例に、AIに相談して仕事のヒントをもらうための具体的な対話術とプロンプトを紹介します。
1. まずは「いまの状況メモ」をそのまま渡す
AIに相談するとき、最初からきれいに整理して書こうとすると手が止まってしまいます。そこで、最初の一歩として、「今の状況」と「困っていること」を箇条書きで書き出し、そのままAIに渡してしまいます。
このとき、「こういう方向性にしたい」「ここだけは譲れない」といった自分の気持ちも一緒に書いておくと、AIはそれを前提条件として考えてくれます。
例:「次の箇条書きは、今の仕事の状況と自分なりの考えです。この内容を整理し、私が今考えるべきポイントを3〜5個にまとめてください。そのうえで、考える順番のおすすめも教えてください。」
このプロンプトでは、AIにいきなり解決策を求めるのではなく、「考えるべきポイントの整理」と「考える順番」を依頼しています。これだけで、頭の中のもやもやが少しクリアになります。
2. 事例①:施策に迷ったときに選択肢と視点をもらう
最初の事例は、「やりたいことの方向性はあるが、どんな施策があり得るのか整理したい」という場面です。たとえば、「自社ECの売上を伸ばしたいが、広告なのかコンテンツなのか、何から手を付けるべきか分からない」という状況です。
このときは、自社の現状とこれまで試したことを簡単に説明したうえで、「選択肢と、それぞれを検討するときの視点」をAIに出してもらいます。
例:「従業員5名の小規模ECサイトで、売上が頭打ちになっていると感じています。これまでに試した施策は◯◯と◯◯です。この状況を踏まえて、今後検討できそうな施策案を5つ挙げてください。それぞれについて、『どんなお客様向けか』『効果が出るまでの目安期間』『取り組むときの注意点』を1行ずつ説明してください。」
このプロンプトでは、「単なる施策リスト」ではなく、「検討の視点」まで含めて提案してもらっています。いきなり「どれを選ぶか」を決めるのではなく、まずは「どんな選択肢があり得るのか」を広げる段階として使います。
そのうえで、気になる施策を絞り込み、もう一段具体化してもらうこともできます。
例:「上の5つの施策のうち、当社のリソース(従業員5名・広告予算は月5万円まで)を踏まえて、最初の3か月で取り組む候補として現実的なものを2つ選び、それぞれの簡単な実行ステップを3つずつ提案してください。」
このプロンプトでは、自社の条件と期間を指定し、「今すぐ取り組むならどれか」という観点で絞り込みとステップ案の作成まで手伝ってもらっています。
3. 事例②:やることが多すぎるときに優先順位をつける
次の事例は、「やるべきことはたくさんあるが、どこから手を付ければよいか分からない」という場面です。タスクを書き出してみたものの、すべてが重要に見えてしまい、結局何も進まない──という状態は、誰にでも起こり得ます。
こうしたときは、タスクの一覧をAIに渡し、「重要度」と「手間」の2軸でざっくり仕分けしてもらいます。
例:「次のタスク一覧について、『売上やお客様への影響の大きさ』『着手に必要な手間(時間・人数)』の2軸で評価してください。各タスクを『すぐやる』『計画してやる』『余裕があればやる』の3つに分類し、その理由を一言ずつ添えてください。」
このプロンプトでは、「どんな観点で優先順位をつけるか」を明示しています。AIに分類してもらった結果を見ながら、「このタスクは本当に後回しで良いか」「今はやらないと決めよう」といった判断がしやすくなります。
また、実際のスケジュールに落とし込むところまで手伝ってもらうこともできます。
例:「分類結果をもとに、向こう4週間の簡単な実行カレンダー案を作成してください。週ごとのテーマと、その週に片付けるべきタスクを箇条書きにしてください。」
このプロンプトでは、「いつ何をするか」をざっくりと決めるためのたたき台として、AIにカレンダー案を作ってもらっています。
4. 事例③:今後の進め方を“壁打ち”しながら決めていく
3つ目の事例は、「長期的なテーマについて、誰かとじっくり話しながら方向性を決めたい」という場面です。たとえば、「来期の重点テーマをどうするか」「新しいサービスを本格展開するかどうか」といった話です。
このときは、いきなり答えを求めるのではなく、「まずAIから質問を投げてもらう」形にすると、考えやすくなります。
例:「次の状況を踏まえて、来期の重点テーマを考えるための壁打ち相手になってください。まずは私に5つほど質問をしてください。その質問に私が答えたあとで、考えを整理して、候補となる方向性を3つにまとめてください。」
このプロンプトでは、AIに役割(壁打ち相手)と進め方(まず質問→回答→整理)を指定しています。実際には、質問に答えながら自分の考えがはっきりしていきますし、AIはその内容をもとに「こういう方針がありそうです」と整理してくれます。
候補が見えてきたら、最後に「決め方」も相談します。
例:「提案してくれた3つの方向性について、メリット・デメリットと、1年後に振り返ったときのリスクをそれぞれ整理してください。そのうえで、私自身が納得して選ぶために、自分に投げかけると良い問いを3つ提示してください。」
このプロンプトでは、AIに「何を選ぶか」ではなく、「どう考えて選ぶか」の手助けを求めています。最終判断は自分で行う前提を保ちつつ、視点の抜けや見落としを減らすことができます。
5. AIに相談するときのスタンスと注意点
AIに相談するときに大切なのは、「答えを丸投げしない」スタンスです。AIは豊富なパターンからそれらしい案を提案してくれますが、それが自社の事情や価値観に本当に合っているかどうかを判断できるのは、自分たちだけです。
そのため、AIから提案を受け取ったら、次のような問いかけを自分にしてみるとよいでしょう。
・この案は、現実の制約(人・お金・時間)に合っているか
・自社の強みや大切にしたい価値観とずれていないか
・お客様の立場から見て、無理や違和感はないか
AIとの対話は、「考える材料」と「視点のヒント」を増やしてくれるものです。その材料をどう料理するか、どの道を選ぶかは、これまでどおり自分たちの役割です。
行き詰まったときに、一人で悩み続けるのではなく、AIを壁打ち相手として使うことで、考えがほぐれ、次の一歩が見えやすくなります。大事なのは、完璧な質問を用意することではなく、「今の状況」と「困っていること」をまず外に出し、それを一緒に整理してもらうことです。
次に仕事で迷いが生じたときは、箇条書きでも構わないので自分の状況を書き出し、「この内容を整理して、考えるべきポイントと候補案を教えてください」とAIに相談してみてください。答えそのものではなく、「考えるプロセス」を支えてもらうつもりで付き合っていくと、生成AIは仕事の心強い相棒になってくれます。
